漁港の釣り人

房総の山間をひたすら走る。

410号も丸山まで来ると田園の風景に変わり、Naviの片隅にようやく海が表れた。

ホッとしながらも早く本物の海が見たいと気持ちが逸る。

でも実際に海が見えてくるのはフラワーラインの瀬戸川を越えてからだ。


海の日を絡めた3連休初日の土曜日は曇天だった。

厚く垂れこめた雲とコーデするように南房の海も鈍色に染まる。

ピーカンに晴れなくとも雨だけは勘弁してほしい。

そんな願いも虚しく小雨がしとしと降り始めた。


釣り場は南房で比較的規模が大きい乙浜漁港を選んだ。

千田や白間津、川口などこじんまりとしていながらも実績のある漁港はたくさんある。

しかし規模ゆえに魚のストック量が少なく、また魚が入っていないことさえもある。

晴れてさえいればランガンで漁港巡りも楽しいだろう。

でも雨天の中でレインウェアを脱ぎ着しながらの移動は面倒だ。

だから1箇所で漁港内のあちこちを探れる乙浜を選んだのだった。


まずは実績のある入り口近くのスロープを攻める。

ベイトはいるようだがイーターは姿を見せない。

少し深場まで丁寧にルアーを流すがノーヒット。


もう1箇所のスロープに移動する。

こっちの方がベイトの活性が高いようだ。

しかも数も多く、そこら中にナブラが立っている。


ある程度ポイントを絞れそうだ。

広範囲を探れるメタルジグからトリッキーなアクションを演出できるワームにチェンジする。

中央付近までキャストしてピョンピョンと左右にダートさせながら巻いてくる。

すると小さいながらショゴがヒットした。

そのショゴを追いかけるように群れの他のショゴたちも続く。



何度かやり取りを繰り返しながらランディング。

撮影を手早く済ませて反対側のスロープにリリースする。

他のショゴたちが去る前に2尾目以降を釣ろうという魂胆。

ところがあれほどいた群れはすでにいなくなっていた。

実際にはいたのかもしれないが反応はなかった。


この日はこれでゲームセットとなった。


2日目もいったん乙浜へ向かうが雨は弱まる気配を見せない。

南房の低い山々に雨雲が覆いかぶさっている。

レーダーによると房総半島の先端付近だけが赤くなっている。

北上したほうがよいと見て鴨川辺りまで移動してみる。

多少弱まったものの雨は降っている。

仕方なく乙浜まで引き返した。


止みそうで完全に降り止まない雨。

覚悟を決めてレインウェアのファスナーを襟元まで締め上げ、フードをすっぽりと被った。

それからお決まりのスロープ狙いから広い漁港内を転々と歩く。


突堤の先端に陣取っている釣り人を発見。

彼からショゴが釣れたという半分自慢話を聞かされた。

メタルジグでは反応がなくミノーの方がよいという。


自慢話とは言え、人の忠告は素直に聞くものだ。

手持ちのルアーからRUDIE'Sをセレクト。

メバル用のミノーだがショゴにもイケるだろう。


スロープ付近に立ち戻って平行にリトリーブしてくる。

バイトした瞬間が偏光グラス越しに見えた。


条件反射でフッキングを決めると魚は暴れ出す。

正体を確かめる必要もなく、何度もエラ洗いを披露して自己紹介してくれた。

スズキクラスに近いフッコであった。



5分以上もやり取りを続けた結果、リアフックを2本伸ばされてバレてしまった。

アジングタックルでは少し無理があったようだ。


その後も粘るがショゴは会いに来てくれなかった。

フッコとのファイトが楽しめたので自分自身を満足させながらタックルを片付ける。




晴れていればロッドを出したかった白間津漁港。

いつもは透き通っている海が泥色に濁っている。


梅雨が明けたらまた来よう。

車のエンジンを掛けると流れ出すSPiCYSOLのNumber。

梅雨明けの真っ青な景色の中で聴くはずだったMellow Yellow。


季節を見失ったような7月の海にSurf Beatがやけに切なく刻まれていた。